「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」其の拾壱

シリーズでお届けする「長谷川裕也の熱烈靴磨き道場」。第11回目は、靴磨きをする上での「第9、10工程目」について。長谷川裕也が熱く語ります。

いよいよ靴磨きも後半戦に入ります。前回はクリームを指と豚毛ブラシを使いしっかり浸透させるところまでお話ししました。今回は第9工程の「乾拭き」と第10工程「ワックスのベース塗り」について詳しくマニアックにお話ししていきます。

革にしっかりクリームを塗り込んだ後に革の表面に残ったクリームは拭き取ります。それが「乾拭き」です。汚れ落としの際に使用した少しざらっとしたコットンを指に巻いて拭き取りますが、その際に指3本に巻き付けてから拭き取ると幅が出て綺麗かつ素早く拭き取れます。

この乾拭きを怠ると残ったクリームがパンツの裾に付着して汚してしまったり、また油性のクリームなどの場合は少しベトつきがあるので埃がつきやすくなって逆に汚れやすくなってしまうということになるので表面がサラッとするまで拭き取ります。

とはいえ布に何もつかなくなるまで拭き取りをするとやり過ぎなので片足大体3周くらいして2回布を巻き替えて拭き取るくらいが適度です。すると写真にあるような感じで布には余分なクリームが取れます。

さあ、ここからがいよいよ後半戦である鏡面磨きに入ります。靴磨き職人の腕の見せ所であり今年復活する靴磨き大会でも一番重要視される技術になります。鏡面磨きを成功させる一番の鍵は“第一膜”をどれだけ早く作れるかです。第一膜ってなんやねんと思ったそこのあなた。説明します。

革の表面にワックスの膜を何層も何層も塗り重ねて厚い膜を作っていくことで革の表面が平らになって鏡面になるのですが、革の表面にはものすごく小さな凹凸があります。そこをまず埋めないとワックスの層ができてこないのです。

なのでその凹凸をまず埋めてワックスを厚く乗せていける状態にすることを僕は昔から“第一膜”と勝手に名づけて呼んでいます。これができないと何回ワックスを塗ってもなかなか光ってこないのです。そしてそれを第10工程「ワックスのベース塗り」と言っています。

というわけで油性ワックスで第一膜を作るべく「ワックスのベース塗り」をしていきましょう。そこで使用するのはTHE WAXです。早く光らせるためにロウ分をかなり多く処方し、使い始めから硬さのあるワックスです。最近では靴磨き道具も進化しいろいろな鏡面磨き用のワックスが登場しています。

ちょっと前までは普通のワックスしかなく、それですと使い始めは有機溶剤が多いので緩くてワックスが膜になりにくかったので蓋を開けて1〜2週間置いて乾燥させてから使う“ドライワックス”が主流でした。でも最近ではドライワックスに近い使用感のワックスがたくさん出ています。

Brift Hでもずっとドライワックスを作っていましたがこのTHE WAXが完成してからはその手間が省けてとても重宝しています。

まずは素手でワックスを取ります。一度に取る量は指の表面に少し色が付くくらいの少量で大丈夫です。それを何度も何度も塗り重ねていきます。指を当ててワックスを温めて少し溶かすような感じで指に取ると良いでしょう。

靴の光らせて良い場所は芯が入っている硬い所です。要はシワにならない所です。シワになる部分に鏡面磨きを施すと革の表面が曲がった際にワックスの膜が割れてしまいます。

なので基本的には「つま先」と「かかと」です。それとその両端を繋げて光沢の統一感を出すために「コバ上」も光らせます。

まずはかかとから塗っていきましょう。指に取ったワックスを革に塗ります。少し力を入れて塗らないと指が滑らないので少し力を入れて塗りましょう。

一度塗って指に取ったワックスがなくなったらまたワックスを取ってもう一度塗ります。それを10回ほど続けてみましょう。最初は白くモヤがかかった状態が少しずつモヤの下に光の筋が出てくるはずです。

それとともに大切なのはムラなく塗ることです。ムラムラに塗るとこの後に磨いていく際にそのムラを残しながら磨くことになるので微妙にワックスがボコボコしてしまう可能性もあります。なので満遍なく均一に塗るようにしましょう。イメージとしてはショートケーキの生クリームを塗るように美しく塗っていきましょう。

そしてそしてもう一つ鏡面磨きを美しく仕上がる重要なポイントがあります。それはグラデーションです。ピッカピカの部分から徐々に光沢が薄くなり自然な光沢感に自然にグラデーションがつく鏡面磨きができるとほぼプロに近いと言えるでしょう。

その秘訣としてはワックスを塗る指の動きです。コインサイズの小さなストロークで塗っていくと部分的な光沢になってしまうので少し広めに大きなストロークで塗ってみましょう。このベースワックスの時点で少し広めにベースを塗っておくとこの後に水を使って光らせるときにすでにちょうど良いグラデーションができる鏡面ができてきます。

写真だと少しラインを引くような感じに見えますがこのコバ上の部分を塗る際も下から上にいくにつれて少しずつワックスが薄くなるようにグラデーションをつけましょう。

ワックスを塗るだけだと白いモヤがかかった状態ですが安心してください、その下に光の筋が現れれば第一膜の完成、ワックスのベース塗り完了です。靴磨きの大会などではこの指でベースワックス作りをしつつ、そのまま2層、3層、4層と膜を厚くしていく方式が主流となります。

もちろんその方法も慣れればできるようになりますが途中で埃が入ってしまったり指で塗るコツも必要になってくるのでこれを読んでいるみなさんには初めはこの方法で試して頂きたいと思います。ここがどれだけ上手にできるかによってこの後の輝きに大きな差が出るので丁寧にやっていきましょう。

というわけで今回はここまで。次回は第11工程「ネル生地で磨く」です。ここも水の量や力加減などコツが満載の工程になりますのでみなさんぜひしっかり読んでください。梅雨シーズンこそ靴をお手入れをするチャンス!履かない時は磨く時!夏に愛靴を美してあげましょう!押忍!!

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