「靴磨き職人探訪記」 part3 Mr,Teruyoshi Tomigashi(GMT Factory)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第3回は「GMTファクトリーで靴磨き職人としてご活躍され、“やってんな~”でもおなじみの富樫輝好さん」をお尋ねします。

・富樫さんが靴磨きをはじめるキッカケはなんだったんですか?

元々僕はGMTという靴の輸入販売をする会社の販売をしていたんですよ。そのときに先輩にケアを教わったのが一番最初の靴磨きですね。もともと物つくりが好きで彫金の専門学校に入って専門学校卒業後にアクセサリー会社に入ったんですが2年で退職して友人の紹介で22歳の時にGMTに入社しました。

靴自体は昔から好きで興味はあったんですけど全然知らなかったんですよ、むかしの僕なんてドレッド頭で電柱砕いてブレイクダンスしていてサーフィンとスノボが趣味みたいな超アクティブ人間だったんでドレスシューズとか靴磨きとか本当に無縁でしたよ(笑)

まあそんな中で本格的に靴磨きをしっかり学びだしたのはR&D(M.モウブレイを扱う商社)の戸石さんの講義でしたね。会社向けのセミナーでGMTに教えに来てくれたんです。そこでステインリムーバーやアニリンカーフクリーム、デリケートクリームを学んでからスタッフ間で自分たちの靴のメンテをしあったり、当時は販売だったんでお客様への接客でアナウンスをするっていうのはやってました。

そのあとに地獄の物流時代があったり(超ハードワーク話は割愛、、、)、営業もしていたのですが、社内で「これだけ靴を売ってきたのにメンテンナンスできないのはどうなんだ!」という声が出てきていま僕のいるGMTファクトリーを作ろうという事になり立ち上げから携わることになりました。

GMTファクトリーでは靴だけではなく洋服やアクセサリーも直します。もともと彫金やっていたのでそのあたりの経験も活きてるんですよ!代々木上原の人たちに「なんでも持ってきてOK。まるっとクローゼットを直せますよ。」っていうコンセプトです。

最初は別に店長がいて、僕は管理業務メインのマネージャーをやる立場だったんですが、まぁ色々とありまして(苦笑)僕が正式に店長に就任しました。その時でもまだシューケアはやっていましたがまだポリッシュはやっていなかった。ただお客様は色々な方がいて色々な要望を受けてたんです。それに答えられないのが悔しかったので改めて勉強しだしました。

R&D、コロンブス、タピール、エスアイザックさんなどクリーム商社各社から靴磨きを学び直しましたし、浅草にある彩革の匠にも勉強しに行きました。正直、会社としてはR&Dさんとのやり取りが多かったのでそこの知識だけだと偏ってしまうなと思い幅広い会社から学んだんです。

なんで僕にはこの人!っていう師匠はいないです。ただある時にサフォールの鏡面の講習を受けた時にいままでの独学の鏡面と違うなと気づいたんです。その時はまだシャツの切れ端で磨いてい時。そこでまた悔しくて次は世の中の靴磨き屋に目を向け始めました。

そのころくらいに丁度“第一回靴磨き大会選手権”を見たんですよ。めっちゃ楽しそうだな~と思って自分の中で靴磨き職人としての立場が確立されました。実際に大会を観に行ったんですがオーディエンスの熱量が半端なかった。

それまで鏡面には魅力を感じていなくてケアでも十分だと思っていたが大会を観て、より美しくすることがこんなに楽しめる世界なんだと思った。そして第二回大会に出ました!いや~めちゃくちゃ面白かったです。それまで惰性でやっていたが大人になって負けて悔しいと本気で思ったことあるかな~と感じましたね。

恐らく皆さんに認知してもらったのは靴磨き職人として大会に出たのがきっかけだと思います。大会出場がキッカケで職人の横のつながりも出来ましたね。靴磨きに対する考え方の違い、やり方の違いなどとても刺激になった。みなさんの磨き方をフラットに良いところをすべて取り入れていこうと思っています。

・富樫さんにとって靴磨きの魅力はなんですか?

そうですね、「自分の手の中で物が変わっていくというのが分かる。」っていうのが一番の魅力かな~。これは彫金のときと一緒で、金属を磨くときって荒い番手から徐々に番手を細かくして磨いていくと表面がどんどんキラッキラに輝いていくんですけどそれにすごく似ていて、自分がやっていたことがその場でもろに変化をしていくのがすごく楽しい!

あとは靴磨き職人としては長くお付き合いしているお客様の靴の経過を共に過ごせることは魅力ですね。これは他の仕事だとなかなかないことだなと思います。

・富樫さんの靴磨きへのこだわりは?

素直に言うと、「固定しないようにしている。」やり方も考え方も。僕の靴磨きは常に変化しているので固定しないようにしています。でも面白いのが意外と廻り廻って元々やっていたところに戻ったりもします(笑)なので色んな事を試すのがこだわりです。

革の論文をWEB上で「皮革」とか調べると色々な論文が出てくるのでそういった情報とか貴重なんですよ。なめし剤の情報や顔料の塗装膜の堅牢度の事など学術的な話で直接は関係ないと思っているところも点と点が線になる瞬間がある。あとたまにおじちゃんおばちゃんとかの手芸やってた人に言われてシルクで磨くのを試したり(笑)プロアマ関係なく聞いたことはまずは試してみる。

それとお客様に合わせてケアの話はしっかり説明をしてやらせてもらいます。例えば「踵の内側を擦りやすい人には踵のワックスを薄めに塗る」とか「お客様が鏡面までやれるのであればガッツリやりますし、そこまでできない人には薄めにやってあげたり。僕が磨いた後にもご自身でケアできる靴磨きをやってあげたいんです、履き主に合わせた磨き方っていうか。

一番やりがいを感じるのはお客様からいただく「ありがとう」の言葉。知らない人が知っていてくれて頼りにしてもらえたり、一年ぶりに行ったイベントで待ってましたと声かけられたりする。自分がお客様のためになっているのが実感できる。これが本当にやりがいになっている。

・富樫さんが印象的だった靴やお客様はいますか?

この前の岩手大会(2022年10月菅原靴店主催)で優勝したSさんとか印象的ですよね。選手権出場のために僕のところにも熱心に勉強に来てくれました。彼はスーパーアマチュアですよね。

あと嬉しいのは僕をキッカケに靴磨きをハマるお客様が多いとことです。うちには靴磨き道具もいっぱいあるので選びやすいのもあるかなと思います。老若男女来てくれますが特にカップルと女性が多いかな~。靴磨き好きの彼氏のために靴磨き道具を沢山買っていくという方とか。

お客様から磨いた動画をDMでもらったりとか嬉しいこともしばしばあります。うちのお客様は靴磨きビギナーが多いので一緒にハンズとか行って買い物とか行っちゃいます(笑)この前もスピラン(革用染料)の緑をハンズで買ってから靴磨きしたりしましたね。

あと最近一番印象的だったのは認知症の徘徊癖のあるおばあちゃんがいて、GPSがついている靴を履いているんですけどそれがダサいのしかないっていうので可愛いの靴のソールにGPSを取り付ける修理をしたり。そういう状態でもやっぱり女性はお気に入りの服とか靴が良いんだな~って感じた。改めて長く使えるようにするのは大事だなと思いました。

・最後に富樫さんがBRIFT H製品でおすすめはなんですか?

THE CREAM!染料の量と伸びの感じが良いですよね。特にMAHOGANYが良いかな~。ALDENの赤系のコードバンに凄く丁度良いです。塗った後にワックスでツヤ出しもしやすいし!ただ指は染まってしまうのが難点だけど(笑)

とは言いつつケアするクリームは染料がいいんですよ。表面に顔料がのるよりやっぱ着色ができるものが良いですよね。

・富樫さんが手掛けているライスクリームと新作のブドウ蔓クリームはどうですか?

お米の成分から出来ているライスクリームは女性が使いやすいようにレザーコスメというイメージで作っています。どうしても靴クリームはワックス分が多いと伸ばしずらいとか固まったりすることがあるのでローションタイプに作りました。またしっかり色がつくようにもなっています。ローションタイプですがワックス分が少し多いので浸透が少し弱いかもですね。

新作のブドウ蔓を使ったクリームはもともと処分してしまう蔓を活かしたサスティナブル商品なんですよ。こちらもレザーコスメなのでケア特化です。使用感はTHE CREAMに近いかな~。ブドウ蔓には抗酸化作用が高いので革を長く愛用したい方にはおすすめです。これから販売が始まるのでこうご期待を!

(インタビューは2022年10月収録時)

仕事で良くご一緒する富樫さん。改めてお話を伺うのは初めてでしたが、とにかく「勉強熱心!」そして「素直!」それに加えて柔和なお人柄で老若男女どんな人にも愛される靴磨き職人だなぁと感激しました。いつもは代々木上原の駅構内にある”GMT Factory“にいらっしゃるのでぜひみなさん気兼ねなく尋ねてみてください♪

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