「靴磨き職人探訪記」 part4 Mr,Peko Nishioka(磨き座 継 -HERITAGE-)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第4回は姫路でご活躍の「磨き座 継 -HERITAGE-」西岡ぺこさんをお尋ねします。

・ぺこさんが靴磨きをはじめるキッカケはなんだったんですか?

キッカケはもともと姫路の実家が靴屋をやっていたっていうのが大きいのですが最初はそこは全然関係ないんです。ちょっと人生を遡るのですが僕は高校卒業して飲食の世界へ入りました。10年間飲食店で働き、飲食業界では料理人をやっていて大阪の大衆イタリアンから高級レストラン、カフェなど色々ところで働きました。

その時は飲食で独立を考えていたので肉屋さんや、バー等、朝と夜の空いている時間もフルに料理に使っていました。そんな時ある日突然、大阪に住んでいる兄貴から電話がかかってきて、当時祖母の介護をしていた母親が色々と大変な状況だというのを聞かされたんです。

僕は高校からスポーツ推薦(バスケットボール)で高知県の学校で寮制生活をしていました。卒業後はすぐに働きに出てしまっていたのであまり母の近くにいてあげられてなかったなと申し訳ないという気持ちがありました。

ちょうど自分も長男が生まれたタイミングでどれだけ母親が大切かってことを痛感した時期だというのもあり、兄貴からの電話を受けて自分が帰らないといけないと思い姫路に帰ったんです。それをキッカケに料理人の世界は中途半端には辞められないなと思い、バッサリやめました。

そのタイミングで姫路にあるヤマトヤシキという地元の百貨店の靴売り場で働きだしました。当時のヤマトヤシキの靴売り場のバイイングや販売代行は “ナカジマ靴店”という母親の実家の会社が請け負っていたんです。そのご縁もあり店頭で販売をやっていました。

その時ヤマトヤシキ百貨店が110周年のタイミングだったんですが111年目で潰れたんです。。。当時5階に紳士靴売り場があり1日2人しかお客様が来ないみたいなやばい状況でしたね。なのに給料をもらえているのが不思議でした、この給料はどこから出ているんだって。

あまりに暇すぎるのにお金をもらっている自分の状況にこのままではダメ人間になると思って靴の修理をネットで学び始め、それで色々と検索した時にBrift Hのサイトを見つけました。それで靴磨きの専門店があるのかと知りました。

靴磨きはすぐにできるなと思ったので大阪のTHE WAY THINGS GOを見つけてすぐに行き、はじめてTHE WAY THINGS GOに行ったときに靴磨きを見てみたいが先行して片足しか持っていかなかったんです(笑)友達と呑んでいてちょっと酔っぱらっていたというのもあったと思うのですが。

その時に対応してくれたのが寺島さん(現HARK)でした。片足では磨けないんですよって言われてもう片足を友達の家に取りに帰ってまたお店に行ったら寺島さんではなく石見さんに代わっていました。それで石見さんに磨いてもらったのが初めての靴磨き体験です。とても感動したのを覚えています。

実家が靴屋を100年くらい続けているというのもあり店の地下で靴を作っていたり靴修理をしていたりという環境で過ごしてきたので一応中学生のときから靴磨きはやっていたんです。やっていたからこそ全く違う靴磨きという事にびっくりしました。ここまでいければ食ってけると感動したのが靴磨き職人のキッカケです。

・ぺこさんにとって靴磨きの魅力はなんですか?

カウンターで磨くというのもすごい世界がおしゃれに感じました。それこそ汚れ落としも布巾で拭くくらいって思っていましたけど、石見さんが30~40分くらい時間をかけて汚れ落としをしてくれたのが印象的でした。

それまでは靴磨きは守るもので革を保護するもの。上から傷を守ってくれるものだと思っていたので沢山塗り重ねて光っていれば良いと思っていたんですけど、それではなくてエステみたいに革のコンディションを良くして長く履くためにやるものだと気づきました。

靴磨きへの価値観が変わった瞬間でした。そこはひとつ魅力を感じてまして、でも現在の自分にとっての靴磨きの魅力はちょっと違うんです。いまは会話の方が魅力的だなと思っていて、靴磨きに来てくれる人って何かの節目だったりする方が多いのでその時のお客様との対話っていうのがとても魅力的だなと思います。

・ぺこさんが印象的だった靴やお客様はいますか?

めちゃめちゃ最近で言いますと「今から同棲する彼女と別れるんです。」というお客様。普通逆やろ!って思うんですけど、なんで別れる前に磨きにくんねん!と聞いたら、別れ際は美しくとおしゃってました(笑)(多分ただ話を聞いて欲しいだけちゃうんかなと思いつつ。)

それと結婚式で履く靴を磨きに来る方は多いですね。あるお客様で30年物のリーガルの靴を長い間履かずに寝かせていたけど娘の結婚式のバージンロードで履きたいという事で磨きにいらっしゃった方がいました。

その靴は履かないんだけど捨てられないという状態だったものなのですが、その方が社会人になって一番最初に買った靴。この靴を履いて娘を育ててきたという思いもあって捨てれないものになっていたとの事でした。

それを履いて娘とバージンロードを歩きたいという事で磨きにいらして頂いた話など感動的ですよね。むかしから姫路の方なのでおそらくそのREGALはナカジマ靴店で買ってくれていると思うんですよね。それが今度は僕が磨かせて頂くというのは本当に素敵やなと思います。

・ぺこさんの靴磨きへのこだわりは?

技術的なこだわりですと姫路は革屋さんが圧倒的に多い地域なので、革屋さんから革のウンチクを聞くことが多いんです。「こういう革を艶を出すには〜。」なんてタンナーさんなどによって全然違うんですよね。なので僕は革目線の靴磨きをやろうと心がけています。でも革屋さんってメンテナンスあんまりしないんですよね(笑)

「うちのは革は100年くらい何もしなくてよいよ〜。」なんて言ってるけどバリバリに割れていることもあったり(笑)そんな革屋さんからも姫路に靴磨き屋っていうのは前例がなかったのもあって可愛がってもらっています。全国から来る方をタンナーにご案内とかもしてますしね。

靴磨きをする上で革屋さんからの話を聞いて変わったところはまず革に対する想いは確実に変わりました。あとは革の事を知ることで“意味ない工程”っていうようなことは技術的に変わりましたね。例えばガラスレザーにクリームが入るか入らないか論争とかも直接ガラスレザーを作っているタンナーに聞きに行ったりとかしました。そういう意味ではタンナーが身近なのは本当に強みだと思います。

【長谷川:姫路といえばコードバンですが何か特殊なことやってますか?】

そうですね〜、ホーウィンのコードバンと姫路の新喜皮革のコードバンでは磨きを変えていますね。ホーウィンはオイル仕上げじゃないですか、なので油分を戻すようにしています。油分補給をメインで考えています。

そこからポリッシュするかどうかはお客様次第ですが新喜皮革の場合は少し顔料(カゼイン)が乗っているので少しナチュラル目に磨いた方が良い。乳化性クリームとかサラッとしたクリームで磨いていますね。

今年新喜皮革が顔料をかけずにナチュラルな“シン・コードバン”というオイル仕上げの新しいコードバンを作ったんです。いままで新喜皮革さんって靴用のコードバンは作っていなくて、でも最近は靴用の需要が増えてきたということで靴用にコードバンを作ろう!とできたらしいんです。オイル仕上げで柔らかくしてあり、人が食べられるレベルの上質な牛脂を使っているとのことですよ。

・ぺこさんがBRIFT H製品でおすすめはなんですか?

ミラクリ(THE CLEANER for Mirror shine)かTHE CREAMのNATURALですね。ミラクリは油性のクリーナーで鏡面のワックスを取るのがかなり新鮮でした。今では鏡面のみならず全体的に使っています。ミラクリを使って汚れ落としした方がクリームの浸透も良くなるので絶対に必要なクリーナーかなと思います。

THE CREAMは浸透性ももちろんですが、シミになりにくいのでお客様にもお勧めしやすいですね。お客様に何か一つお勧めするとしたらというので絶対的にお勧めしやすいですし、革の個性を殺さない、光り過ぎない、というのも良いところです。

・最後にヘリテージに込めた意味を聞かせてください。

ヘリテージはその名の通り継承の継。姫路城という文化財もあって継承していくというのが根付いた土地やと思うんです。革屋さんも100年は持ちますよっていうのもあって靴や革製品を次の世代に継いでいきたいという想いもありますし、靴磨き職人がカッコいいなという職業としても継いでいきたいというのもあります。名前を “磨き座”にしたのは靴を通して人も磨いていくという意味を込めて“靴”の文字ををあえて抜きました。

今回ぺこさんのお話を伺っていると地元への愛、家族への愛、革への愛をとても強く感じました。姫路だからこその靴磨きの考え方やアプローチの仕方は本当に聞いていて興味深く、ぜひ色々な革を磨いて欲しいなと思いました。

ご実家がナカジマ靴店という老舗の靴店を営んでおり、小さい時から靴が身近だったぺこさんは靴のサラブレッドでもあると思うのですが、そんなぺこさんが継いだ想いが靴磨き屋として形となり、これからは靴磨きに限らず色々なものを磨き継いでいかれるんだろうなと思うとこれからが楽しみでなりません。

ぜひみなさんも一度姫路に行った際にはぺこさんの靴磨きを体験しにいってみてください。気さくで本当に気持ちの良い人です。

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