「靴磨き職人探訪記」 part6 Mr,Go Ishimi(TWTG)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第6回はみなさんご存知の靴磨き日本大会初代チャンピオンであり、過去の大会でTWTGとして3連覇をし日本を代表する職人石見豪さんをお尋ねします。

・石見さんが靴磨きをはじめたきっかけはなんですか?

僕が20歳くらいのときに勤めていた会社の社長がBALLYの靴をくれたんです。それがキッカケで良い靴を大切に履いていこうと思って母親に靴磨きのやり方を聞いたらワックスを靴全面に塗る方法を教えてくれたんです(笑)そんな間違った方法しか知らないまま時は過ぎ27歳の時に出会ったファッション大好きな同僚で山田君っていう人がいて、彼がめちゃくちゃ靴磨きやってんたんです。その山田くんがちゃんとした靴磨きの方法を教えてくれたんです。

「靴磨きやってないとかっこ悪いぞ」って言われて腹立って勉強し始めました(笑)なので素人ながら鏡面磨きは出来るというレベルだったんですよ。時間はめちゃかかるレベルでしたけど。そっから普通に洋服好きとしてオールデンの9901を初めて買いました。それを磨いて履いてたんですけど、何回も失敗して光らなくなってボンタ(大阪の靴修理屋さん)に持って行って怒られたりしました(笑)

そんなこんなしている時にサラリーマン時代の目標を29歳の時に達成し、燃え尽き症候群になってしまいました。仕事へのやる気を失ってしまったんです。そんな状態は自分でも辛かったので、なにか独立して自分が燃えられる仕事がないかと考えていた時にyahooニュースで大阪にバーニッシュという靴磨き屋さんが出来たというのを知りました。「関西にも靴磨き屋ができたんや」と少し驚きました。しかも当時の職場のすぐ近くに。

すぐに行きましたね。オールデンのコードバンを持っていきました。その時に靴磨きっていう商売について深く考えてみたんですが、これで商売していくってイメージが湧かなかったんですよね。なので敢えて靴磨きという仕事だったらこの燃え尽き症候群を打破できるかもしれない、絶対に一生懸命やるしかなさそうだと思い靴磨きを仕事にしようと思いました。そう決めてからは迷いがなくなって、一週間後には会社に退職願いを出してました。

最初は京橋の路上で友人が商売をしていたのでその隣でやらせてもらったのが靴磨き屋としてのスタートです。これは3か月くらいやりました。そのあと出張専門の靴磨き屋って他に聞かないなと思って出張靴磨きをはじめました。長谷川さんと会ったのはちょうどそのくらいでしたよね(調べたら2012年3月18日でした。)

京橋の某保険会社に初めての出張靴磨きのお仕事をいただいて、その支社の神戸支店に行ったところからお客様がお客様を紹介してくださって、さらに個人の方も依頼してくださるようになって、という感じで色々なところへ出張に行くようになりました。その時は朝9時~夜9時まで一日中磨いてましたね。一日に約30足は磨いていました。その時代にかなり技術面でも勉強させてもらいました。

それ以外にもホテルマン向けの研修をやったり、スーツで有名なRING JACKETさんの店舗で週二回くらい常駐したり関西の名店gujiさんで提携店舗として受付していただきました。どんどん営業して開拓していきました。

そして2015年に今のうちが入居している船場ビルヂング入ってるスーツ屋さんからイベントの依頼がありました。その時に初めて来て「めちゃくちゃかっこいいビルやな」と思って部屋が空いているか聞いたら2年待ちだっていうんで「空いたら連絡ください」って伝えたら翌日連絡来たんですよ(笑)

ちょうど空き部屋が出たということですぐに契約したんですよ。正直そんなすぐにお店をやろうとは思っていなかったんですが、ただ有形文化財の建物に靴磨き屋が入ったら面白いなとは思っていました。そこで心を決めてそのあと2カ月後くらいにはTHE WAY THINGS GOをOPENしました。

・急な出店でしたがどんなことを考えて店を作りましたか?

そうですね、お店を出しても多分いけるかなと思っていた要因の一つは、インスタグラムでした。その当時はまだ日本でのインスタグラムの知名度は低かったんですが、アメリカでは既に定着していたので必ず日本でも流行ると思って2012年からやっていました。それが出店する際の自信に繋がっています。

またその時に屋号を変えて今の店名である“THE WAY THINGS GO”っていう名前にしたんです。意味は“ことのしだい”っていう意味なんですが、シカゴの美大を卒業した妻が教えてくれたアート作品に強く影響を受けてその作品名を屋号にしました。

THE WAY THINGS GOという映像作品なんですけど、それを作るために膨大な時間と綿密な計算がされつくされていて、本当に考えて作っている作品というのは背景を知らずとも分かるんだな、「本物は一瞬で伝わるんだ」というのを知りました。その映像作品が自分の考えていることにすごく近くて、これだ!って感じで決まりました。

・石見さんにとって靴磨きの魅力とは?

そうですね、靴磨きの魅力は短い時間で靴に劇的な変化を起こせること、それでお客様に感動してもらえることです。そして自分にとっては靴磨きには追求しつづけられる面白さがあっていまだに「あっ、自分が上手くなったな」って感じられるブレイクスルーの瞬間があるんですよ。靴作りみたいに研究しつくされていなくて、まだまだ靴磨きには方法論を模索する余地や実験する余白があるので突き詰められるところが面白いですね。

あと普段自分の履いている靴が汚れていたり、傷ついていたりしても周りに指摘されることって殆どないと思うので気づく人って少ないと思います。でも反対に、同じ靴でもキレイにした途端に「綺麗ですね」って言われるんでよね、そうすると靴磨きの価値って気付きやすいんですけどそれを経験する人ってなかなかいないので多くの方に「まず磨いてみてください」って思います。靴磨きの魅力をぜひ感じて欲しいです。

・いままでに印象的だったお客様や靴はありますか?

とあるお客様で、言葉を選ばずに言うと安価な靴の持ち込みだったんですけど、カカト内側に穴が開いてるしその他の部分もかなり傷んでいる靴で、完璧に直そうと修理の見積もりをしていくと最終的に総額75000円になってしまったんです。「やります?」って聞いたらやるってなって、純粋に「なんでですか!?」って聞いたら、社会人になって始めて買った靴なので直して家に飾ろうと思ってとおしゃったんです。

それですべて修理などやらせていただいてお渡しした時にお客様はすごく喜んでくださいました。それまでは高価なものや貴重なものはお金をかける価値があるから磨くって思っていたのがそのご依頼で価値観が変わったんです。思い出を磨かせてもらってるんやなって。それからはお客様のご事情や背景も想像しながら靴を見られるようになりました。

・靴磨きの技術のこだわりはなんですか?

一番はお客様にとって良いってことですかね。

長持ちする鏡面をご希望ならそれをしますし、クリームだけの仕上げが良いんであればそう磨きます。どんな要望にもすべて答えられる幅の広さを持つってことですよね。それがプロやと思います。そういった意味では、昨年一年靴作りの修行をしたのもお客様にお応えできる範囲の拡張するためです。

カウンターでの磨きのこだわりもお客様にとって素敵な時間であり空間かっていうのを常に自問しています。気持ちよく帰っていただくという事を大切にしたい、と。忙しい日に知らず知らずのうちに磨く速度が速くなってしまうことが過去にあったので、どんな時も「魅せる磨き」をするように意識してます。

・おすすめのBrift H製品は?

ミラクリちゃんは死ぬほどは使ってますよ。

昔にコロンブスのハイシャインクリーナーって固形クリーナー初めて使いだしたところから今はミラクリに変更してよく使ってます。革に負担が少ないという点が良いですよね。今はそれ以外に他社の物も含めてクリーナーは3種類使っているんです。それぞれの用途に合わせて使い分けています。

・最後に石見さんならではの質問ですが、日本の靴磨き大会を3連覇している秘訣はなんですか?

秘訣は、まず再現性の部分ですね。そもそもTWTGの店名にOSAKAって付けている理由として技術の再現性を叶えて店舗を広げていこうと思っていた現れなのですが、靴磨きを言語化して伝える方法を組み立てたんです。

ただし95%は伝えられるのですが5%は経験値でしか得られない部分です。95の教えたことが反復で残りの5を覚えられる。何足やっても同じ仕上がりになるような再現性と安定したクオリティを実現できるようにしています。特に指で塗る感覚を徹底的に指導してました。それが9割方決めるんで。

メンタルに関しては、僕が第一回大会で優勝した時ってまず大会で使う全商品揃えてすべて試して研究ししました。全力で取り組んだんでそれによって誰よりも研究しているという自信をつけましたし、毎日夢で優勝してたんですよ。

その後のうちから輩出した優勝者二人に関してはビデオで所作の研究をしたり、業務中に2時間はフリーでトレーニングしていいよっていう時間も設けて練習もしてたんですよ。大会の規定時間より短縮した時間でも100%の仕上がりが出来るように、必ず短い時間で練習していました。人に合わせて教え方は変えていましたが立ち方から指導していたのが3連覇という結果に繋がったんだと思います。

石見さんとはお店を開店する前からのお付き合いですが今回じっくりお話を伺うと独自の世界観で靴磨きを表現されていて素晴らしいな~と改めて思いました。

美意識もそうですが、靴磨きを言語化して再現性を可能にしているという点は石見さんが毎回仕上げる美しい磨きがその答えで、まさしくTHE WAY THINGS GOという言葉がピッタリです。 まだ石見さんの磨きを体験したことがない方はぜひ大阪に味わいに行ってみてはいかがでしょうか。

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