「靴磨き職人探訪記」 part8 Mr,Naoki Hayashida(Brift H sapporo)

シリーズでお届けする「靴磨き職人探訪記」。世の中にはたくさんの素敵な靴磨き職人がいる!第8回は先日開催された靴磨き世界大会で優勝した、Brift H sapporoのオーナー兼靴磨き職人の林田直樹さんです。

2023年5月13日23:00(JPN)にスタートしたロンドンでの靴磨き世界大会。決勝を3名で争う大会にBrift H sapporoのオーナー兼靴磨き職人の林田直樹さんが出場し見事に優勝しました。

4年ぶりに日本人が靴磨き世界チャンピオンになり業界は沸きだっています。それを記念して急遽ロンドンにいる林田さんとオンラインで緊急インタビューを実施、大会から一夜明け興奮冷めやらぬ状態でのインタビューをお伝えします。

と、その前に林田直樹さんについて僕(長谷川)からご紹介させていただきます。

林田さんと最初に出会ったのはBrift H sapporoという今の店の前進となる「The Lounge by Brift H」という店名でBrift H初のFC店として札幌でショップインショップ形式で営業していた時代です。もう7年くらい前ですかね。靴磨きのワークショップイベントを実施しに行った時にお客様の一人として参加してくれたのが林田さんとの最初の出会いでした。

わざわざ当時住んでいた旭川からお越しいただき、誰よりも熱心に靴磨きを学ばれているのが印象的でした、その熱さと個性的な人間力のおかげで強く記憶に残りました。そしてその後本業と掛け持ちをしながら旭川市内で靴磨きでの仕事を始めた林田さん。その活躍はInstagramなどでちょこちょこ拝見していました。

と、そんなこんな時期に2018年に日本靴磨き選手権大会を銀座三越で初開催することとなりました。僕はこの大会の発起人として主催の三越伊勢丹さんと一緒に大会立ち上げに尽力していました。そして出場選手を決めるためにBrift Hにて予選を実施することになりました。

第一回大会はプロだけに絞った大会にしようということで、全出場者12名のうち6名を協賛企業の推薦枠で出場者を選出し、残りの6名はBrift Hで予選会を開いて僕が選出するという方法で選びました。

全国から猛者どもがうちの狭い店に集まり異様な雰囲気になったのは今も忘れません。その中に林田さんも旭川で活動する靴磨き職人の一人として参加されていました。無事に予選会は終わり、僕が忖度なしで選んだ上位6名が決まりました。補欠も含め念の為に参加者を1位から10位くらいまで順位をつけていたのですが、林田さんは7位という結果でした

その6名を決めたことを大会運営陣の方々にお伝えしたところ、スコッチグレインの廣川社長が「うちは推薦枠いらないので長谷川さんもう一人選んで良いですよ。」という申し出があり、7位だった林田さんが繰り上がり的に出場となり、その旨をお電話をしたのを覚えています。

今から考えてみるとその時から靴磨きの女神は林田さんに微笑み始めていたのかもしれませんね。

そんな一件も過ぎ、その後当時の札幌店のFCオーナーから電話があり、「今の店長が辞めてしまうのでThe Lounge by Brift Hをやめようと思う」という話が来ました。うちでも3ヶ月間研修し頑張ってくれたイケメンのH店長が辞めてしまっては誰も受け継ぐ人がいないので仕方ないか。。。と考えていたところ、僕の頭に林田さんの顔が思い浮かびました。

「ちょっと待ってください、後任に最適な人がいるのでちょっと待ってもらって良いですか。」
そう電話を切って、速攻で林田さんに電話をし状況をお話ししました。
「ぜひうちの札幌店を受け継いでくれませんか?」
最初は困惑してい林田さんでしたが真剣に考えてみますと電話を切り後日承諾のお返事を貰いました。

ご家族と共に子育てのために移り住んだ街を離れるということ、旭川で多くの方に支えられ靴磨きに仕事も着実に増えてきたことなどを考えると、とても勇気のいることだったと思います、それを決意してくれた林田さんには感謝しかありません。

その後、2019年にThe Lunge by Brift Hの2代目店長を引き継ぎ、持ち前の超がつく真面目さと向上心で着実に実力をつけファンも増やしていき、晴れて2021年12月に「Brift H sapporo」として今までの場所から移り自分のお店をOPENさせました。

そんな林田さん、靴磨き業界では決して若くはない42歳という歳で挑戦を続けながら今回つかんだ世界チャンピオンという称号

さあ!それでは大会翌日のインタビューをどうぞ!

・優勝おめでとうございます。率直に今のお気持ちは?

ありがとうございます!!一番は嬉しいっていうのもあるんですよけど安心してるってというのが一番です。いろんな人に応援してもらってロンドンまで来ましたし、自分自身も勝つ気で挑んで自分にプレッシャーをかけまくっていたので本当に良かったなと思います。

お客さんたちがたくさん応援してくれて、Instagramのライブでもたくさんの方がコメントしてくれたみたいで本当に嬉しかったです。残念ながらアーカイブだとコメントを見れなかったけど(笑)皆さんのスクショで色々と見れてとてもありがたいな〜と思いながら、感謝の気持ちでいっぱいです。

あと家族も喜んでくれました。妻が「人生でこんなことが起きるなんてね〜」と言ってくれて、妻もリアルタイムで動画を見てくれていて、こんなに沢山の人に応援されているというのがとても感動したみたいです。娘とは大会前にビデオ通話して「一番のメダル欲しい?」なんて妻が娘に聞いたりなんかしたのもあって娘のためにも絶対メダル持って帰りたいと強く思いました。

・大会当日はどんな風に迎えましたか?

朝6時くらいから起きてホテルの部屋で最後の練習をしたんですよ。コロンブスの海外部のIさんの靴をお借りして朝から練習です。会場の熱気がすごいんだろうなと想像して、部屋の暖房をガンガンに効かせて汗だくになりながら練習してました(笑)そのあとは準備してカフェで朝ごはん食べて、会場には13時前に着きましたね。

会場ではSuper Trunk show(靴磨き大会が実施される紳士靴の総合展示会)をパーっと見たら見てから特にやることもなく、ぶらぶらしてましたね。僕が到着した時にはすでにパティーヌの大会はやっていましたね。靴磨きと違ってパティーヌの大会は時間が結構長くかけてやってましたね。靴磨きの大会は現地15時スタートだったのでフラフラ待っていました。

そうそう、余談ですが前日にLoake(靴磨き大会で磨くシューメーカー)のお店で現物の靴を確認しに行ったんですよ。お店には現物の新品が置いてあって、思ったよりつま先の色が濃かったので色の感じも「あ〜いいな」と思いました。触った感触も「あ〜いけそうだな」と思いましたね。

Loakeの黒人の店員さんが「下見に来たから君は勝てるよ〜Good luck!」なんて言ってくれて嬉しかったです(笑)あっちの人ってオープンマインドですよね!

そして準備始まって、15時になったので時間になったのでやりまーすって感じになってきて3名が集まりました。3つあるテーブルに誰がどこのテーブル?なんて始まって。戦うもう二人は試合前に初めて会いましたが見た目が屈強な感じでインパクトはありました。正直靴磨きの実力に関しては前情報があまりなくて分からなかったですよね。

ただアイルランド人の方のインスタアカウント直前で判明したんですよ!その人の靴磨き方法がすごすぎて(笑)靴に土詰めて棒で叩いたりして、そのあと火で炙ったりコテで鳴らしてサンドペーパーかけたりとかなんか違う世界から来た人みたいなことやってて。。。もうめちゃくちゃ謎で0か100かみたいな感じだったんですよね。(結果その人が一番光ってなかった。)

ちょっと話が逸れてしまいました(笑)そして主催者のイエスパーが一人ずつ選手を紹介して大会がスタートしました。

スタートの前はいよいよきたな〜!なんて思いましたが緊張というよりは闘志がみなぎった煉獄さん状態でしたね(笑)会場の熱気は日本の靴磨き大会に似ているかな〜でも日本の方が熱気はあるかな〜と思いました。

試合中は他の方はほとんど見ずに、完全に自分の靴に集中してました。それこそ長谷川さんをイメージしながら自分ができるベストを出し切れば結果はついてくると信じていたんで他の人を見る必要がないと思ったので。とにかくベースの指塗りの段階でどこまで理想のベースが作れるかが勝負だと思っていましたが、最初の2分、3分くらいは自分が思うところまで行くのに時間がかかりました。

今回の作戦としては色を濃く仕上げたかったので最初に布を使ってムラにならないようにDBRWを塗りこんでいったんですよ。できる限り革を潰すように塗りこんで。そこからはミラーグロスと混ぜながらベースを作ってを10分間はやりました。そしてネル生地を指に巻く瞬間は予定通りシャキーンと手を高く掲げポーズをとって。(※会場で滑っていたというもっぱらの噂です)

できれば8分くらいでベースを完成させたかったのですが10分くらいかかっちゃっいました。その後ネルでワックスをのせていきたいので、なるべく動きが特訓通りに指を大きく動くように意識して、ネルで攻めていってコバも攻めていって。レースステイの部分もいつもより多めに磨くように意識して磨きましたね。そんでラスト2分くらいはワックスを乗せずに水研ぎだけでいきたかったので“KIEKOネル”で整えていきました。仕上げに最適なので使わせてもらいました。

終わった瞬間はスッキリしてましたね。OK!って感じでしたっ!

他の二人のことは見てなかったですが絶対勝てると信じていましたし、やり切った感はそれなりにあって、100点満点中90点くらいは出せたと思いました。大会前にずっとイエスパーに自分の名前を呼ばれる瞬間を何度も何度もイメージしていたので実際に優勝者の発表の際に「Naoki Hayashida from Japan!」って言われた時はキター!って感じでしたね。

余談ですがめっちゃイメトレの大切だと思ってまして、なんか緊張が減るんですよね。緊張って敵じゃないですか。なのであれを消すために事前に練習やイメトレって大事なのでそれを繰り返しました。終わった後はみんなに「コングラッツ!」と声をかけられて写真撮りまくりました(笑)知らない外国人30人くらいと撮りましたよ!英語が全然話せないのでそこはめちゃくちゃ悔しいな〜と思いました。

・ちなみに大会に向けてどんな準備をしてきましたか?

まずY’s shoeshineの杉村さん(2019年世界大会優勝者)が大会で実際に使われるLoakeの靴を貸してくれたので、まず大会同様に20分で磨くというトレーニングを4月に入ってから集中的にやりました。あとは大会で指定されているサフィールの2種類のワックスを色々と検証をしながら練習しました。あとは長谷川さんの世界大会の動画を見ながら動きを真似したり(笑)練習の時は大会の模様を動画で流しながら磨き練習をしましたね。

あとうちのお得意様でSさんっていうお得意さんと一緒にご飯を食べにいった時に「ロンドン行くまでにあと何足磨くんですか?」というのをロンドン出発10日前くらいに聞かれて「100足くらいですかね」なんて答えたら、Sさんが「じゃあ僕は100キロ走ります」って約束してくれて(泣)そういう応援してくれる人もいたりして。

正直100足磨くのはかなり大変で、大会の練習もしたいしお客様の仕事のいろんな納期も迫っているし正直かなりきつかったんですけど行ったからにはと思って挑んでみると逆に仕事がすごく進んでちゃんとよい感じで進められたんですよね。それで100足できました。

その他だと実はいろんなことを験担ぎしまくりました!一番のお得意様のIさんから頂いたオレンジのネクタイもらったから大丈夫。長谷川さんが大丈夫と言ったから大丈夫。100足磨けたらから大丈夫。ってとにかく色んなことを験担ぎにして自分なら大丈夫って暗示かけていました。全てに意味があると思いながら。

・世界チャンピオンになって今後に関してはどうんなこと考えてますか?

今後については、コツコツやっていくのは変わらないですし。。。あとは日本大会に気持ちを向けていきたいな〜と思っています。

あとロンドンに来て思ったのは純粋にカッコ良くなりたいって思いました!ロンドンってとっぽい人が多くて(笑)アジア人とかもめっちゃスタイリッシュで、もっと自分に華がある感じが出ればもっといい磨きが出きるんじゃないかって思うんですよ

ロンドンには日本と違って自分のスタイルを持っている人が多いなと感じます、人間力が大事だな〜と改めて感じました。その辺歩いている人もスタイルがあるんですよね。スーパーのレジ打ちの人がタトゥーゴリゴリ入っていたりとか。。。めちゃくちゃかっこいいですよね。

・最後に日本の皆さんにメッセージを!

勝利のその瞬間まで沢山の応援をいただきまして本当にありがとうございました!応援してくださる皆さんのお気持ちに応えたい一心で後悔ないよう自分なりに準備をし、今回の受賞に繋がり安心しています。

これをまた新たなスタートと捉えて引き続き色々な事にチャレンジし挑んでいきたいと思いますし、それを楽しみにしていただけたらそれこそ生きがいです。

皆さまが私をロンドンに連れて行ってくださったといっても本当に過言ではありませんし、心から感謝しております。本当にありがとうございました。引き続き変わらぬ応援のほどよろしくお願いいたします!